2012年08月18日
SNS(交流サイト)のフェイスブック上でサッポロビールが運営する企業ページ(フェイスブックページ)「北海道Likers(ライカーズ)」が注目を集めている。4月6日に開始後、約3カ月間で10万の「いいね!」を達成し、当初目標の10倍を実現したからだ。国内のフェイスブックページの「いいね!」数ランキングでも日本語ページで7月になって100位以内に入ってきた。
フェイスブックページの「いいね!」ボタンを押せば、ページの書き込みを読むことができる。それだけ多くのユーザーがアクセスしているといえる。せっかく開設したものの利用が少なく「閑古鳥状態」という企業ページも少なくない中、サッポロビールは徹底的に「社名を見せない」というアプローチでユーザーを集めた。
■サッポロビールではなく「北海道」を売り込む
「北海道Likers(ライカーズ)」のフェイスブックページ
「想像以上の反応です」と担当するサッポロビールの新価値開発本部未来開発室の鈴木雄一マネージャーは話す。北海道ライカーズは北海道の地域活性化を目的として開設された。狙いはビール業界における新しいビジネスモデルの開発だ。
家庭向けのビール販売では、テレビCMや店頭広告などマスメディアの活用による大規模なキャンペーン展開が主流。キャンペーン後の1~2週間で勝負が決まるとされている。しかしソーシャルメディアの登場で消費者に直接にアプローチできるようになり、マスメディア以外の手法も選択できるようになった。
ソーシャルメディアを活用した新しい取り組みを開始するにあたり、同社はまず自社の強みを分析した。その結果、出てきたキーワードが「北海道」だったという。
同社のルーツは明治の開拓使にさかのぼる。北海道が盛り上がれば、サッポロビールも盛り上がるという考えに至り、北海道を徹底的にアピールすると決めた。そこでアジアを中心に海外からの旅行客が多いという条件を活かすために、グローバルなSNSであるフェイスブックでの情報発信を選んだ。
運営はサッポロビールとネットイヤー子会社のネットイヤーゼロ(東京都港区)が共同で行っている。道内在住のライターや翻訳者と契約し、スタッフを北海道関係者でそろえた。ページには観光地や特産品の情報を掲載しているが、サッポロビールの商品や情報はほとんど登場しない。
サッポロビールは、ブログやフェイスブック、ツイッター、ユーチューブのアカウントを持ち積極的に情報を発信している。
ホームページにソーシャルメディアのアカウント一覧があるが、北海道ライカーズは掲載されていない。
よく見なければサッポロビールがページを運営しているとは分からない。会社名を出さないため、商品をアピールする際は慎重だ。同社の新製品「北海道プレミアム」をページで紹介したときは、「どんな反応が出てくるか心配で心配で5分ごとにページを見た」ほど。それでも、普段と変わらない状況だったので一安心したという。
■東京ユーザーが感じる北海道らしさを打ち出す
ページへの投稿は多彩だ。北海道で開かれているイベントやおみやげ、風景、グルメなどで、どの投稿にも5000から1万を超える「いいね!」が付き、コメントが100件を超えるものもある。たとえば、北海道の小樽駅近くの市場で食べることのできるいくら丼には、約2万の「いいね!」がつき、600以上のページに再投稿(シェア)されている。他にも、ジャガイモのだんごやアップルの新OS(基本ソフト) 「Mountain Lion」の壁紙に採用された美瑛町の青い池などが人気だ。キティちゃんのデザインのジンギスカン鍋を紹介したら、紹介先の製造元では鍋が売り切れたという。ページは月間で延べ600万人に閲覧され、週5回以上見ている人は70万人に上る。
人気の秘訣は、北海道というテーマの強さにあるが、ユーザーを底上げするためにページ開設直後はプレゼントキャンペーンやフェイスブック内広告を利用した。
キャンペーンや広告で初期ユーザーを増やすのは、NHNジャパンの通信サービス「LINE」やソーシャルゲームでも行われている手法だが、さらに同社の場合、運営当初は書き込みの一つひとつに丁寧に返信するなどユーザーとのコミュニケーションを深めた。
サッポロビールの新価値開発本部未来開発室の鈴木雄一マネージャー
投稿では、きれいに作り上げた写真よりもスナップ的な写真の人気が高いということも分かってきた。ページを運営し始めた際に、ユーザーからクオリティーが高すぎるという反応もあったことで見直しをかけ、完成度が高すぎるものよりもライターが紹介したいという気持ちがあふれるものを優先している。
北海道の情報を紹介するページながら、最もユーザーが多い東京を意識する編集方針も人気につながっている。実際、道内ユーザーは数千人しかいないので、「東京の人が感じる北海道らしさ」といった、外から見た北海道の魅力も打ち出した。
こうした地方からの情報発信で課題となるのは、地元の魅力を発見できずに過小評価したり、東京など他地域からの評価を嫌って排除したりすることだ。構想段階から関わるネットイヤーゼロの倉重宜弘取締役によれば、市場調査する中で、サッポロビールの北海道での位置づけや地域のネットワーク、北海道のコンテンツ力の強さなど、老舗のサッポロビールからすれば「当たり前」と思うことが、大きな資産であると気付いたという。「サッポロビールは真面目で一本気。ソーシャルで愛されるチャンスがあると思った」(倉重取締役)。
■ノウハウを生かし、新製品開発のページを開設
開設当初、社内の反応は鈍かったという。「ビール会社なのでビールのことしか考えていない」という社内の雰囲気では、「いかに北海道の魅力を発信するか」という取り組みを理解してもらうのは難しいに違いない。
「百人ビール・ラボ」のフェイスブックページ
しかしエビスビールのフェイスブックページの「いいね!」より多くなり、反応が増えるにつれて社内の見る目も変化し始めたという。地域の魅力同様、企業にとっての強みや資産も、つい見失いがちになる。こうした資産をユーザーの反応から再認識できるのもソーシャルメディアの面白さといえる。
同社のさらなる関心は、つながった10万人を超えるファンとの関係をどう生かすかに移りつつある。北海道ライカーズで生かしたユーザーとの交流ノウハウをふまえて、新製品を開発するフェイスブックページ「百人ビール・ラボ」を8月11日に立ち上げたのも、その一つだ。北海道ライカーズでは自社を前面に出さずに北海道の魅力を引き出したが、ビール開発という「ど真ん中」の取り組みで、今後どのように消費者との関係を築くかが注目される。
色々なヒントが隠された記事だと思います。